予備知識

線形代数学を学ぶための予備知識は多くない。集合と代数系に関する術後を説明する。

集合と写像

定義. 集合、要素

客体の集まりとして定義される概念を 集合 という。集合に含まれる客体をその集合の 要素 という。 客体 \(a\) が集合 \(A\) の要素であることを \(a\in A\) と書く。

定義. 和、共通部分、差

集合 \(A, B\) に関して、次のように定める:

  1. \(A\cup B\)\(A, B\) のどちらか一方または両方に含まれる客体全体の集合。\(A\)\(B\)和集合 と呼ばれる。
  2. \(A\cap B\)\(A\)\(B\) の共通部分であり、 \(A, B\) の両方に含まれる客体全体からなる集合。
  3. \(A-B\)\(A\) の元のうち \(B\) に含まれないもの全体からなる集合。 \(A\backslash B\) とも書く。

定義. 直積

集合 \(A_1, \dots, A_n\) に関して、これらから1つずつ要素を取って並べたもの全体の集合

(1)\[\{ (a_1, \dots, a_n) | a_1 \in A_1, \dots, a_n \in A_n \}\]

\(A_1, \dots, A_n\)直積 といい、 \(A_1 \times \dots \times A_n\) と書く。 \(A_1 = \dots = A_n = A\) の時は、これを \(A^n\) と書く。,

直積集合の例には、数平面 \(\mathbb{R^2}\) や数空間 \(\mathbb{R^3}\) がある。

論理式による部分集合の定義

集合 \(A\) と変数 \(x \in A\) に関する論理式 \(\varphi(x)\) に関して、 \(\varphi(x)\) を満たす \(x\) 全体の集まりは集合として成立する。これを \(\{ x\in A| \varphi(x) \}\) 等と書く。

定義. 量化

集合 \(A\) と変数 \(x \in A\) に関する論理式 \(\varphi(x)\) に関して、

(2)\[\forall x\in A.\varphi(x)\]

は「 \(A\) の任意の元 \(x\) に関して \(\varphi(x)\) が成り立つ」という意味の論理式で、 \(\varphi(x)\)全称量化 という。また、

(3)\[\exists x\in A. \varphi(x)\]

は「 \(\varphi(x)\) を満たす \(A\) の元 \(x\) が存在する」という意味の論理式で、 \(\varphi(x)\)存在量化 という。

定義. 同値関係

集合 \(A\) 上の二項関係 \(\sim\) は、次の条件を満たす時、 同値関係 という:

  1. 任意の元 \(a\in A\) に関して、 \(a\sim a\)
  2. 任意の元 \(a,b \in A\) に関して、 \(a\sim b\) ならば \(b\sim a\)
  3. 任意の元 \(a,b,c\in A\) に関して、( \(a\sim b\) かつ \(b\sim c\) )ならば \(a\sim c\)

\(a\sim b\) の時、 \(a\)\(b\)同値 であるという。各 \(a\in A\) に対して、 \(a\) と同値な元全体からなる集合 \(\{x\in A| a\sim x \}\) が定まる。これを \(a\)代表元 とする 同値類 といい、 \([a]\) と書く。

定義. 商集合

集合 \(A\) とその上の同値関係 \(\sim\) が与えられた時、 \(\sim\) による同値類全体の集まりは集合として成立する。これを \(A/\sim\) と書き、 \(A\)\(\sim\) による 商集合 と呼ぶ。 \(A\) \(\sim\) で割った集合 ということもある。

定義. 写像

集合 \(A, B\) に関して、 \(A\) の各元に \(B\) の元を一つずつ対応させる関係 \(f\)写像 といい、 \(f:A\rightarrow B\) と書く。この時、 \(A\)\(f\)定義域 といい、 \(B\)\(f\)値域 という。 \(f\) によって元 \(a\in A\) に対応する \(B\) の元を \(f(a)\) と書き、 \(f(a)=b\) であることを \(f:a\mapsto b\) とも書く。

定義. 写像の合成

写像 \(f:A\rightarrow B, g:B\rightarrow C\) に関して、 \(A\) の元 \(a\)\(g(f(a))\) を対応させる写像を \(f\)\(g\)合成 といい、 \(g\circ f\) と書く。

定義. 恒等写像

集合 \(A\) に関して、任意の \(a\in A\) に対して \(f(a)=a\) とする写像 \(f:A\rightarrow A\)\(A\) 上の 恒等写像 といい \(\text{id}_A\) と書く。

定義. 単射、全射、全単射

写像 \(f:A\rightarrow B\) は、任意の元 \(a_1, a_2 \in A\) に関して、 \(f(a_1)=f(a_2)\) ならば \(a_1=a_2\) が成り立つ時、 単射 という。また、 任意の元 \(b\in B\) に対して、ある元 \(a\in A\) が存在して \(f(a)=b\) となるならば、 全射 という。全射かつ単射であれば 全単射 という。

定義. 逆写像

写像 \(f:A\rightarrow B\) が全単射のとき、その 逆写像 と呼ばれる写像 \(f^{-1}\) がただ一つ存在して、 \(f^{-1} \circ f = \text{id}_A\)\(f\circ f^{-1} = \text{id}_B\) を満たす。

定義. 像、逆像

\(f:A\rightarrow B\) を写像とする。部分集合 \(A'\subseteq A\) に関して、次の集合を \(f\) による \(A'\) といい、 \(f(A')\) と書く:

(4)\[\{b\in B|\exists a\in A'. b=f(a)\}\]

また、部分集合 \(B'\subseteq B\) に関して、次の集合集合を \(B'\)\(f\) による 逆像 といい、 \(f^{-1}(B')\) と書く:

(5)\[\{ a \in A| f(a)\in B\}\]

定義. 写像の制限

写像 \(f:A\rightarrow B\) の定義域を部分集合 \(A'\subseteq A\) に制限したものを \(f|_{A'}:A'\rightarrow B\) と書く。

代数系

集合 \(A\) は、ある特定の条件を満たす 演算 と呼ばれる写像が1つ以上与えられている時、 代数系 という。代数系の種類は以下のようにいろいろある。

定義. 群

集合 \(G\) は次の条件を満たす演算 \(\cdot : G\times G\rightarrow G\) が与えられている時、 (ぐん)という。

  1. 任意の \(a, b, c \in G\) に関して、 \(a\cdot (b\cdot c) = (a\cdot b) \cdot c\)
  2. 単位元 と呼ばれる元 \(e\in G\) が存在して、任意の元 \(g\in G\) に関して、 \(g\cdot e = e\cdot g = g\)
  3. 任意の \(g\in G\) に関して、この 逆元 と呼ばれる元 \(g^{-1}\) が存在して、 \(g\cdot g^{-1} = g^{-1} \cdot g=e\)

上記の3つの条件のうち前半の2つのみを要求する場合 モノイド という。即ち、群とは任意の元が逆元を持つモノイドだ。

\(\mathbb{Q}\) は乗法に関してモノイドとなる。この例では、単位元は1で逆元は逆数だ。 \(\mathbb{Q}\) から0を除いた集合 \(\mathbb{Q}^{\times} = \mathbb{Q}\backslash \{0\}\) は乗法に関して群となる。

群の典型は、ある集合 \(A\) から自分自身への全単射(これを \(A\) 上の 変換 という)からなる集合だ。

定義. 加法群

演算が可換な群を 加法群 という。即ち、 群 \(G\) であって、群演算 \(\cdot: G\times G\rightarrow G\) が次を満たすものが加法群だ:

  1. 任意の \(a,b\in G\) に関して、 \(a\cdot b = b\cdot a\)

加法群では、しばしば演算を \(+\) と表記し、それに合わせて単位元を0、 \(g\) の逆元を \(-g\) と書く。

加法群の例には \(\mathbb{Z}\) がある。

定義. 環

集合 \(R\) は、次の条件を満たす加法 \(+:R\times R\rightarrow R\) と乗法 \(\cdot: R\times R \rightarrow R\) が与えられている時、 (かん)という。

  1. \(+\) に関して加法群。
  2. \(\cdot\) に関してモノイド。
  3. 任意の \(a,b,c\in R\) に関して、 \(a\cdot (b+c) = a\cdot b + a\cdot c\)\((a+b)\cdot c = a\cdot c + b\cdot c\) が成り立つ。

加法の単位元を0と書き、乗法の単位元を1と書く。

環の例には \(\mathbb{Z}\)\(\mathbb{Q}\) がある。

定義. 可換環

乗法が可換な環を 可換環 と呼ぶ。すなわち、環 \(R\) で乗法 \(\cdot:R\times R\rightarrow R\) が次を満たすものだ:

  1. 任意の \(a, b\in R\) に関して、 \(a\cdot b = b\cdot a\)

可換環の例には \(\mathbb{Z}\)\(\mathbb{Q}\) がある。

定義. 体

可換環であって0以外の元が乗法に関して逆元を持つものを (たい)という。ただし、一つの元だけからなる集合 \(\{ 0 \}\) は、例外的に体ではないとみなすことがある。

体の例には \(\mathbb{Q}\) があり、体でない可換環の例には \(\mathbb{Z}\) がある。