線形写像のなす線形空間

\(K\) は体とする。

基本事項

定義. 関数空間

\(K\) 線形空間 \(V, W\) に関して、 \(V\) から \(W\) への \(K\) 準同型全体の集合を \(\text{Hom}(V, W)\) と書く。これは、次の定義によって \(K\) 線形空間になる:

  1. 任意の元 \(f, g\in \text{Hom}(V, W)\) に関して、 \((f+g)(x) = f(x)+g(x)\)
  2. 任意の元 \(c \in K, f\in \text{Hom}(V, W)\) に関して、 \((cf)(x)=c(f(x))\)

定義. 双対空間

\(K\) 線形空間 \(V\) に関して、 \(\text{Hom}(V, K)\)\(V\)双対空間 と呼び、 \(V^{*}\) と書く。

双対空間を考える動機

双対空間について考える理由の一つは幾何学にある。 \(M\) をなめらかな空間、 \(f:M\rightarrow \mathbb{R}\) を微分可能な関数とする。点 \(p\in M\) の近くでの \(f\) の性質を調べたい。そのために、 \(M\)\(p\) における接空間 \(T_p M\) で近似する。 \(T_p M\) は点 \(p\) を原点とする線形空間の構造を持つ。そこで、 \(f\) を線形写像 \(d_pf :T_p M\rightarrow \mathbb{R}\) で近似する。この時、 \(d_pf \in T_p M^*\)

定義. 双対基底

\(V\) は有限次元 \(K\) 線形空間とし、 \(e_1, \dots, e_n\)\(V\) の基底とする。ベクトル \(e_1^{*}, \dots, e_n^{*} \in V^{*}\) を次のように定義する:任意の \(v\in V\) に関して、スカラー \(a_1, \dots, a_n\in K\) によって

(1)\[v=a_1e_1+\dots a_ne_n\]

と表した時、

(2)\[e_i^{*}(v)=a_i\]

この \(e_1^{*}, \dots, e_n^{*}\)\(e_1, \dots, e_n\)双対基底 という。

\(K\) 準同型 \(f:V\rightarrow V^{*}\)\(f(a_1e_1 + \dots + a_ne_n)=a_1e_1^{*} + \dots + a_ne_n^{*}\) で定義すると、これは同型 \(V\simeq V^{*}\) を与える。

定義. クロネッカーのデルタ

クロネッカーのデルタ と呼ばれる関数 \(\delta_{ij}\) を次で定義する:

(3)\[\begin{split}\delta_{ij}= \begin{cases} 1 &(i=j)\\ 0 &(i\neq j) \end{cases}\end{split}\]

これを使うと、 \(e_i^{*}(e_j) = \delta_{ij}\) と書ける。

二重双対空間との自然な同型

\(V\) の基底 \(e_1, \dots, e_n\) を使って同型 \(V\simeq V^{*}\) を作り、その双対基底 \(e_1^{*}, \dots, e_n^{*}\) を使って同型 \(V^{*}\simeq V^{**}\) を作る。この2つの同型を繋げると、同型写像

(4)\[f:V\rightarrow V^{**}\]

を得る。この同型は基底の選び方に依存しないことが次のようにしてわかる:

任意のベクトル \(v\in V\) に関して、ベクトル \(\text{ev}_v \in V^{**}\) を次のように定める:

  1. 任意のベクトル \(\varphi \in V^{*}\) に関して、 \(\text{ev}_v(\varphi )=\varphi (v)\)

対応 \(v\mapsto \text{ev}_v\) によって、 \(K\) 準同型 \(\phi:V\rightarrow V^{**}\) を得る。\(\phi\) の定義は基底の選択を前提としない。 \(f=\phi\) を証明しよう。それには基底の全ての元 \(e_i\) に関して \(f(e_i) = \phi(e_i)\) を示せばよく、それには双対基底の全ての元 \(e_j^{*}\) に関して \(f(e_i)(e_j^{*})=\phi(e_i)(e_j^{*})\) を示せばよい。

(5)\[\begin{split}\begin{align} f(e_i)(e_j^{*}) =& e_i^{**}(e_j^{*})\\ =& \delta_{ij}\\ =& e_j^{*}(e_i)\\ =& \phi(e_i)(e_j^{*}) \end{align}\end{split}\]

定義. 引き戻し

\(V, W\)\(K\) 線形空間とし、 \(f:V\rightarrow W\)\(K\) 準同型とする。元 \(\varphi \in W^*\) に対して元 \(\varphi \circ f \in V^*\) を対応させることで、 \(K\) 準同型 \(f^* :W^* \rightarrow V^*\) を得る。 これを \(f\)引き戻し という。

零化空間の理論

定義. 零化空間

\(V\)\(K\) 線形空間とし、 \(S\)\(V\) の部分集合とする。 \(S\)零化空間 \(S^0\) を次のように定める。

(6)\[S^0 := \{l\in V^* | \forall s\in S. l(s)=0\}\]

零化空間を考える動機

線形空間 \(V\) に内積が定義されている場合、部分空間 \(W\) に関して直交補空間 \(W^{\perp}\) を考えることができる。 \(V\) が有現次元の時、 \(W^{\perp}\)\(W^0\) と自然に同型になる。零化空間は、内積が定義されていない線形空間において直交補空間の代替概念として使う。

零化空間の同型

\(V\) を有限次元 \(K\) 線形空間、 \(W\)\(V\) の部分空間とする。

次が成り立つ:

(7)\[W^0 \simeq (V/W)^*\]

系として、次を得る:

(8)\[\dim{W^0} + \dim{W} = \dim{V}\]

零化空間と和と共通部分

有現次元 \(K\) 線形空間 \(V\) の部分空間 \(W_1, W_2\) に関して、次が成り立つ:

  1. \((W_1+W_2)^0 = W_1^0\cap W_2^0\)
  2. \((W_1\cap W_2)^0=W_1^0+W_2^0\)

二重双対と零化空間

\(V\) を有現次元 \(K\) 線形空間とし、 \(W\) をその部分空間とする。自然な同型 \(V\simeq V^{**}\) は、同型 \(W \simeq (W^0)^0\) を与える。

命題. 直線を有限個集めても平面に成らない

\(V_1,\dots, V_k\)\(\mathbb{R}^n\)\((n-1)\) 次元部分空間とする。

次が成り立つ:

(9)\[\cup_{i=1}^k V_i \neq \mathbb{R}^n\]

証明の手引:

\(\dim{V_i^0}=1\) より、 \(V_i^0=\langle \phi_i\rangle\) となる \(\phi_i\in (\mathbb{R}^n)^*\) が存在し、次が成り立つ:

(10)\[V_i=\{ v\in \mathbb{R}^n | \phi_i(v)=0 \}\]

次の集合を導入する:

(11)\[S=\{(1, s, s^2, \dots, s^{n-1})\in \mathbb{R}^n | s\in \mathbb{R} \}\]

方程式

(12)\[\phi_i(e_1)+\phi_i(e_2)s+\dots+\phi_i(e_n)s^{n-1}=0\]

の解は高々 \((n-1)\) 個だから、 \(V_i\cap S\) は有限集合、よって、 \(S\cap \cup_{i=1}^k V_i\) は有限集合。しかし、 \(S\cap \mathbb{R}^n\) すなわち \(S\) は無限集合だから、 \(\cup_{i=1}^k V_i \neq \mathbb{R}^n\)

命題. 値域の零化空間と引き戻しの核

\(f:V\rightarrow W\)\(K\) 線形空間の間の準同型とする。次が成り立つ:

(13)\[(\text{Im }f)^0 = \text{Ker } f^*\]

系として、次を得る:

(14)\[\text{Im }f \simeq (\text{Ker }f^*)^0\]

命題. 引き戻しとの階数の一致

有限次元 \(K\) 線形空間の間の準同型 \(f:V\rightarrow W\) に関して、 \(f\) の階数と \(f^*\) の階数は等しい:

(15)\[\dim{\text{Im }f}=\dim{\text{Im }f^*}\]

系として、次を得る:

(16)\[\dim{\text{Ker }f} = \dim{\text{Ker }f^*}\]

これは行列の 命題. 行階数と列階数の一致 の証明に使われる。

自己準同型環と一般線型群

定義. 自己準同型環

任意の \(f, g\in \text{Hom}(V, V)\) に関して \(f\circ g \in \text{Hom}(V, V)\) だが、これを \(f\)\(g\) の積とみなすと、 \(\text{Hom}(V, V)\) は環になる。これを \(V\)自己準同型環 といい、 \(\text{End}(V)\) と書く。

自己準同型の何が特別なのか?

\(f\in \text{Hom}(V, W)\) とする。もし \(V=W\) であれば、 \(f\) の入力と出力を比較することができる。例えば、 \(v\in V\) に関して、 \(f(v)\)\(v\) と平行かどうかという問題を考えることができる。この話題は スペクトル理論 で扱われる。

定義. 一般線形群

\(\text{End}(V)\) の元のうち、可逆元(逆元が存在する元)全体のなす集合は、乗法に関して群をなす。これを 一般線型群 と呼び、 \(\text{GL}(V)\) と書く。 \(\text{GL}(K^n)\)\(\text{GL}(n, K)\) とも書く。

可逆性の条件

\(V\) を有限次元 \(K\) 線形空間とし、 \(f, g\in \text{End}(V)\) とする。 \(f\circ g=\text{id}_V\) ならば \(f\)\(g\) は可逆。