計量線形空間

基本事項

定義. 内積、計量線形空間

\(K\)\(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) とし、 \(V\)\(K\) 線形空間とする。 写像 \(\langle -, - \rangle :V \times V \rightarrow k\) は、次の性質を持つ時、 \(V\) 上の 内積 という。ただし、 \(\overline{x}\)\(x\) の複素共役を表す。

  1. 任意の元 \(x_1, x_2, y\in V\) に関して、 \(\langle x_1 + x_2, y \rangle = \langle x_1 , y\rangle + \langle x_2 , y\rangle\)
  2. 任意の元 \(x, y_1, y_2 \in V\) に関して、 \(\langle x , y_1 + y_2\rangle = \langle x , y_1 \rangle + \langle x , y_2\rangle\)
  3. 任意の元 \(c\in K, x, y\in V\) に関して、 \(\langle cx, y\rangle = c\langle x , y\rangle\)
  4. 任意の元 \(c\in K, x, y\in V\) に関して、 \(\langle x , cy\rangle = \overline{c}\langle x, y\rangle\)
  5. 任意の元 \(x, y\in V\) に関して、 \(\langle x , y \rangle = \overline{\langle y, x\rangle }\)
  6. 任意の元 \(x\in V\) に関して、 \(\langle x, x\rangle \in \mathbb{R}, \langle x, x\rangle \geq 0\)
  7. 任意の元 \(x\in V\) に関して、 \(\langle x, x\rangle = 0 \Leftrightarrow x = 0\)

上記3と4から解るように、 \(K=\mathbb{C}\) の時は第一成分と第二成分の間に非対称性がある。どちらの成分を線形にするかに関しては、本によって違いがある。

線形空間にその上の内積を合わせて考えたものを、 計量線形空間内積空間 という。

定義. 直交

計量線形空間の元 \(x, y\) は、 \(\langle x, y\rangle =0\) となる時、 直交する といい、このことを \(x \perp y\) と書く。

定義. ノルム、長さ

計量線形空間 \(V\) の元 \(x\) に関して、 \(\sqrt{\langle x, x\rangle}\)\(x\)ノルム長さ と呼び、 \(\| x \|\) と表記する。

計量線形空間の例

  1. \(\mathbb{R}^n\) は、 \(\langle x, y\rangle = \sum_{i=0}^n x_i y_i\) と定義すると、計量線形空間になる。
  2. \(\mathbb{C}^n\) は、 \(\langle x, y\rangle = \sum_{i=0}^n x_i \overline{y_i}\) と定義すると、計量線形空間になる。

命題. 直交性と線形独立性

計量線形空間の互いに直交する0でないベクトルは線形独立。

定義. 正規直交系、正規直交基底

計量線形空間の元 \(e_1, \dots, e_n\) は、互いに直交し、どれの長さも1である時、 正規直交系 という。正規直交系である基底を 正規直交基底 という。

定義. 内積を保つ、計量同型

\(V, W\)\(K\) 上の計量線形空間とし、 \(f\in \text{Hom}(V, W)\) は、次の性質を持つ時、 内積を保つ という:

  1. 任意の \(x, y\in V\) に関して、 \(\langle x, y \rangle = \langle f(x), f(y) \rangle\)

内積を保つ同型を 計量同型 という。

命題. コーシー-シュワルツの不等式

計量線形空間 \(V\) の任意の元 \(x, y\) に関して、次が成り立つ:

(1)\[| \langle x, y\rangle | \leq \| x \| \| y \|\]

証明の手引:

(2)\[z := x-\frac{\langle x, y\rangle }{\| y \| } y\]

とおくと、 \(0 \leq \| z \|\)

命題. 三角不等式

計量線形空間 \(V\) の任意の元 \(x, y\) に関して、次が成り立つ:

(3)\[\| x+y \| \leq \| x \| + \| y \|\]

グラム-シュミットの直交化法

\(V\) を有限次元計量線形空間とする。 \(V\) の任意の基底 \(e_1,\dots,e_n\) に関して、次の性質を満たす基底 \(e'_1, \dots, e'_n\) が構成できる:

  1. \(e'_1, \dots, e'_n\)\(V\) の正規直交基底
  2. 全ての \(k\) に関して、\(e'\)\(e_1, \dots, e_k\) の線形結合

次のようにする:

初めに、 \(e'_1=\frac{1}{\| e_1\|}\) とする。次に、 \(e'_1, \dots, e'_k\) が構成されているとして、

(4)\[x=e_{k+1} - \sum_{l=1}^k \langle e_{k+1}, e'_{l}\rangle e'_{l}\]

とおき、 \(e'_{k+1} = \frac{1}{\| x\|} x\) とする。

定義. 双対空間への自然な写像

\(V\) を計量線形空間とする。 各 \(v\in V\) に関して、 \(v'\in V\)\(\langle v', v\rangle\) に対応させる写像を \(\langle -, v\rangle\) と書く。

ベクトル \(v\in V\) にベクトル \(\langle -, v\rangle \in V^*\) を対応させる写像を、本章では \(\phi_V:V\rightarrow V^*\) と書く。

実計量線形空間の場合

命題. 双対空間への同型

\(\mathbb{R}\) 上の有現次元計量線形空間 \(V\) に関して、前項で定義した \(\phi_V\) は同型。

証明の手引:

\(K=\mathbb{R}\) の時、複素共役をとる操作がないので、 \(\phi_V\) は線形写像。 \(\dim{V}=\dim{V^*}\)\(\phi_V\) の単射性から従う。

定義. 直交補空間

計量線形空間 \(V\) とその部分空間 \(W\) に関して、 \(W\) の全てのベクトルと直交する \(V\) のベクトル全体の集合は \(V\) の部分空間だ。これを \(W\)直交補空間 といい、 \(W^{\perp}\) と書く。

命題. 直交補空間と零化空間

\(V\)\(\mathbb{R}\) 上の有現次元計量線形空間とし、 \(W\) をその部分空間とする。 \(\phi_V:V\rightarrow V^*\)\(W^{\perp}\) への制限は同型 \(W^{\perp}\simeq W^0\) を与える。

命題. 部分空間と直交補空間との直和

\(V\) を有限次元計量線形空間とし、 \(W\) をその部分空間とする。

次が成り立つ:

(5)\[V= W\oplus W^{\perp}\]

複素計量線形空間の場合

定義. 随伴写像

\(V, W\)\(\mathbb{C}\) 上の有現次元線形空間とする。任意の線形写像 \(f:V\rightarrow W\) に関して、次の条件を満たす線形写像 \(g:W\rightarrow V\) が唯一つ存在する。

  1. 任意の \(v\in V, w\in W\) に関して、 \(\langle v, g(w)\rangle = \langle f(v), w\rangle\)

これを \(f\)随伴写像 といい、 \(f^\dagger\) と書く。

証明の手引:

(6)\[f^\dagger=\phi_V^{-1}\circ f^*\circ \phi_W\]

定義. ユニタリ写像

\(\mathbb{C}\) 上の有現次元計量線形空間 \(V, W\) に関して、 \(f\in\text{Hom}(V, W)\) は、次の性質を持つ時、 ユニタリ写像 という:

  1. \(f^\dagger = f^{-1}\)

定義. 自己随伴写像

\(\mathbb{C}\) 上の有現次元計量線形空間 \(V\) に関して、 \(f\in \text{End}(V)\) は、次の性質を持つ時、 自己随伴写像 という:

  1. \(f^\dagger = f\)

定義. 正規写像

\(\mathbb{C}\) 上の有現次元計量線形空間 \(V\) に関して、 \(f\in \text{End}(V)\) は、次の性質を持つ時、 正規写像 という:

  1. \(f\circ f^\dagger = f^\dagger\circ f\)

これはスペクトル理論で使う。

命題. 正規写像の核と随伴の核

正規な線形写像 \(f\in \text{End}(V)\) に関して、次が成り立つ:

(7)\[\text{Ker }f= \text{Ker }f^\dagger\]

証明の手引:

(8)\[\langle fv, fv\rangle = \langle f^\dagger v, f^\dagger v\rangle\]