スペクトル理論

本節では、特に説明がなければ、 \(V\)\(\mathbb{C}\) 上の有限次元線形空間、 \(\dim{V} =n \neq 0\)\(T\in \text{End}(V)\) とする。

また、本章では作用素風の書き方をする:恒等写像 \(\text{id}_V \in \text{End}(V)\)\(I\) と書き、 \(T(v)\)\(Tv\) と書き、 \(T\)\(i\) 回合成したものを \(T^i\) と書く。

基本事項

定義. 固有値

複素数 \(\lambda\) は、 \(Tv=\lambda v\) を満たす0でない \(v\in V\) が存在する時、 \(T\)固有値 という。また、この時の \(v\)\(T\)固有ベクトル と呼ぶ。

この条件は、 \(T-\lambda I\in \text{End}(V)\) が単射でないことと同値だ。

命題. 固有値の存在

任意の \(T\in \text{End}(V)\) に関して、 \(T\) の固有値は存在する。

証明の手引:

背理法の前提として、 \(T\) の固有値の不存在を仮定する。任意の \(\lambda \in \mathbb{C}\) に関して \((T-\lambda I)\) は単射だから、1次以上の任意の多項式 \(f\) に関して、 \(f(T)\) は単射。

そこで、零でないベクトル \(v\in V\) を採り、 \(f(T)v=0\) を満たす \(1\) 次以上の多項式 \(f\) の存在を示し矛盾を導く。

これは、 \(\dim{V}=n\) より \((n+1)\) 個のベクトル

(1)\[v, Tv, T^2v, \dots, T^nv\]

が線形従属であることから従う。

この証明には代数学の基本定理が使われるが、代数学の基本定理は、本章で展開するスペクトル理論に依存しない初等的な複素解析によって証明できるので、循環論法になる危険はない。

命題. 異なる固有値の固有ベクトルは線形独立

\(v_1, \dots, v_m \in V\)\(T\) の固有ベクトルで、それらの固有値は全て異なるとする。

\(v_1, \dots, v_m\) は線形独立。

証明の手引:

\(v_i\) の固有値を \(\lambda_i\) とする。 \((T-\lambda_iI)\)\(v_j\) に作用させると \(i=j\) の時にのみ \(0\) になるから、これを使って \(v_1,\dots, v_m\) の線形結合から \(v_i\) の項を消すことができる。

定義. 広義固有ベクトル

ある自然数 \(k\) が存在して \((T-\lambda I)^kv=0\) かつ \((T-\lambda I)^{k-1}v \neq 0\) となる時、 \(v\) は固有値 \(\lambda\) に関する階数 \(k\)広義固有ベクトル という。

命題. 広義固有ベクトルの空間

固有値 \(\lambda\) に関する広義固有ベクトル全体の集合は、自然に \(\mathbb{C}\) 線形空間になり、 \(\text{Ker }(T-\lambda I)^n\) に一致する。

証明の手引:

\(v\)\(\lambda\) に関する 階数 \(k\) の広義固有ベクトルとする。次のベクトルは線形独立:

(2)\[v, (T-\lambda I)v, (T-\lambda I)^2v, \dots, (T-\lambda I)^{k-1}v\]

\(\dim{V}=n\) より、 \(k\leq n\)

命題. 広義固有ベクトルは線形空間を張る

\(T\) に関する広義固有ベクトルの集合を \(S\) とすると、 \(\langle S\rangle =V\)

証明の手引:

\(V\) の次元 \(n\) に関する数学的帰納法で証明する。

\(\lambda\)\(T\) の固有値とし、 \(W_1= \text{Ker }(T-\lambda I)^n\)\(W_2= \text{Im }(T-\lambda I)^n\) とおくと、次が成り立つ:

(3)\[V=W_1 \oplus W_2\]

\(W_1 \neq \{0\}\) より \(\dim{W_2}<n\) 。また、 \(\text{Im }T|_{W_2} \subseteq W_2\) より、 \(T|_{W_2}: W_2\rightarrow W_2\) とみなせる。従って、 \(W_2\)\(T|_{W_2}\) に関して帰納法の仮定が使え、 \(W_2\)\(T|_{W_2}\) の広義固有ベクトルで生成される。

定義. 冪零元

ある自然数 \(m\) が存在して \(T^m=0\) となる時、 \(T\)冪零 であるという。

命題. 固有値が0のみの作用素は冪零

\(T\) の固有値が0のみであれば、 \(T^n=0\)

命題. 固有値の異なる広義固有ベクトルは線形独立

\(v_1, \dots, v_m \in V\)\(T\) の広義固有ベクトルで、それらの固有値は全て異なるとする。次が成り立つ:

  1. \(v_1, \dots, v_m\) は線形独立。

証明の手引:

\(a_1, \dots, a_m\in\mathbb{C}\) に関して、 \(a_1v_1 + \dots + a_mv_m=0\) とする。

\(v_i\) の固有値を \(\lambda_i\) とし、 \(v_1\) の階数を \(k\) とする。 \((T-\lambda_i)^nv_i=0\) より、次が成り立つ:

(4)\[a_1(T-\lambda_1 I)^{k-1}(T-\lambda_2 I)^n \dots (T-\lambda_m I)^nv_1 = 0\]

\(T-\lambda_iI\)\(T-\lambda_1I + (\lambda_1-\lambda_i)I\) と書いてこの式を整理すると、次を得る:

(5)\[a_1(\lambda_1-\lambda_2)^n\dots(\lambda_1-\lambda_m)^n(T-\lambda_1)^{k-1}v_1=0\]

よって、 \(a_1=0\)

命題. 構造定理

\(T\) の相異なる固有値を \(\lambda_1,\dots, \lambda_m\) とし、それらに対応する広義固有ベクトルのなす空間を \(W_1, \dots, W_m\) とする。

次が成り立つ:

  1. \(V=W_1\oplus \dots \oplus W_m\)
  2. 全ての \(i\) に関して、 \(T(W_i) \subseteq W_i\)
  3. 全ての \(i\) に関して、 \((T-\lambda_i I)|_{W_i}\) は冪零
  4. 全ての \(i\) に関して、 \(\lambda_i\)\(T|_{W_i}\) の唯一の固有値

特性多項式と最小多項式

定義. 最小多項式

複素数係数の0でない多項式 \(f(z)\in \mathbb{C}[z]\)\(f(T)=0\) を満たすもののうち、次数が最小で、最高次の項の係数が1であるものを \(T\)最小多項式 という。

最小多項式の存在は、次のようにしてわかる: \(\text{End}(V)\simeq \text{Mat}(n, n;\mathbb{C})\) より、 \(\text{End}(V)\) は有限次元だから、ある \(k\) に関して \(I, T, T^2, \dots, T^k\) は線形従属になる。

命題. 最小多項式と広義固有ベクトル

\(\lambda_1, \dots, \lambda_m\)\(T\) の固有値とし、対応する広義固有ベクトルのなす部分空間を \(W_1, \dots, W_m\) とする。

任意のベクトル \(w\in W_i\) に関して、 \((T-\lambda_i I)^kw=0\) を満たす自然数 \(k\) が存在する(例えば、 \(k=\dim{W_i}\) )。その \(k\) のうち最小のものを \(\alpha_i\) とおく。

次の多項式を考える:

(6)\[P(X)=(X-\lambda_1)^{\alpha_1}\dots (X-\lambda_m)^{\alpha_m}\]

次が成り立つ:

  1. \(P\)\(T\) の最小多項式
  2. \(P\) の次数 は \(n\) 以下
  3. 多項式 \(Q\) に関して、 \(Q(T)=0\) が成り立つならば、多項式として \(Q\)\(P\) で割り切れる。

証明の手引:

2, 3, 1の順で示す。

2は \(\alpha_i \leq \dim{W_i}\) から示せる。

3を得るには、 \(Q\) が全ての \((X-\lambda_i)^{\alpha_i}\) で割り切れることを示せばよい。そのために、任意の \(i\) に関して、

(7)\[Q(X)=c(X-r_1)^{\beta_1}\dots(X-r_k)^{\beta_k}(X-\lambda_i)^{\beta}\]

と表して、\(\alpha_i\leq \beta\) を示す。それには \((T-\lambda_i I)^{\beta}|_{W_i}=0\) を示せばよい。

(8)\[c(T-r_1I)^{\beta_1}\dots(T-r_kI)^{\beta_k}|_{W_i}:W_i\rightarrow W_i\]

は単射だから、 \(Q(T)|_{W_i}=0\) より、 \((T-\lambda_i I)^{\beta}|_{W_i} = 0\) を得る。

1は3から示せる。

定義. 重複度

\(T\) の固有値 \(\lambda\) に関して、 \(\lambda\) に関する広義固有ベクトル全体のなす空間の次元を \(\lambda\)重複度 という。

定義. 特性多項式

\(\lambda_1, \dots, \lambda_m\)\(T\) の相異なる固有値とし、それらの重複度を \(\beta_1, \dots, \beta_m\) とする。

次の \(n\) 次多項式を \(T\)特性多項式 という:

(9)\[(X-\lambda_1)^{\beta_1}\dots (X-\lambda_m)^{\beta_m}\]

命題. ケーリー-ハミルトンの定理

\(Q\)\(T\) の特性多項式とすると、 \(Q(T)=0\)

行列の標準化

基底変換と行列

線形写像 \(f\in \text{Hom}(K^m, K^n)\) を標準基底に関して行列で表すと \(M^f\) になるとする。 \(K^m\) の基底として \(p_1,\dots, p_m\) を、 \(K^n\) の基底として \(q_1,\dots, q_n\) を採った時、 \(f\) はどのような行列で表されるだろう?

基底の作る行列を \(P=(p_1,\dots, p_m)\)\(Q=(q_1,\dots, q_n)\) とおく。これは \(e_i\)\(p_i\) に対応させる線形写像 \(F_P:K^m\rightarrow K^m\)\(e_i\)\(q_i\) に対応させる線形写像 \(F_Q:K^n\rightarrow K^n\) を定義する。

(10)\[\begin{split}\require{AMScd} \begin{CD} K^m@< F_P<< K^m\\ @VF_AVV @VVF_Q^{-1}\circ F_A \circ F_PV\\ K^n@>>F_Q^{-1}>K^n \end{CD}\end{split}\]

知りたい行列は、上記の合成写像 \(F_Q^{-1}\circ F_A \circ F_P\) を行列で表したものだから、次に一致する:

(11)\[Q^{-1}AP\]

定義. 行列の相似

\(n\) 次正方行列 \(A, B\) は、 \(B=P^{-1}AP\) を満たす正則行列 \(P\) が存在する時、 相似 であるという。

定義. 上三角行列

正方行列は、対角線成分より左下にある全ての成分が0の時、 上三角行列 という。

命題. 冪零行列は対角成分が0の上三角行列に相似

任意の冪零元 \(T\in \text{End}(V)\) に関して、次の性質を持つ \(V\) の基底が存在する:

  1. この基底に関して \(T\) に対応する行列 \(M\) は、上三角行列で対角成分が全て0

証明:

初めに \(\text{Ker }T\) の基底を採り、次にそれを延長して \(\text{Ker }T^2\) の基底を採り、...と順番に \(\text{Ker }T^k\) の基底を採っていく。ある \(m\) に関して \(\text{Ker }T^m=V\) だから、この操作によっていずれ \(V\) の基底を得ることができる。これを \(p_1,\dots, p_n\) とする。

この基底で表した \(T\) の行列を \(A\) とおき、 \(A\) の列ベクトルを \(a_1,\dots, a_n\) とおく。

任意の \(i\) に関して、 \(p_i\in \text{Ker }T^k-\text{Ker }T^{k-1}\) となる自然数 \(k\) がただ一つ存在する。 \(Tp_i\in \text{Ker }T^{k-1}\) より、 \(Tp_i\)\(p_1,p_1,\dots, p_{i-1}\) の線形結合で書ける。 \(Tp_i=c_1p_1+\dots+c_{i-1}p_{i-1}\) とすると、

(12)\[\begin{split}a_i = \begin{bmatrix} c_1\\ \vdots\\ c_{i-1}\\ 0\\ \vdots\\ 0 \end{bmatrix}\end{split}\]

従って、 \(A\) は対角成分が0の上三角行列。

命題. 任意の線形演算子は上三角行列で表現できる

\(T\) の相異なる固有値を \(\lambda_1,\dots,\lambda_m\) とする。この時、 \(T\) の行列が次の形になるような \(V\) の基底が存在する:

(13)\[\begin{split}\begin{bmatrix} \lambda_1 & & * & & & & & & & \\ & \ddots & & & & & & & 0 & \\ 0 & & \lambda_1 & & & & & & & \\ & & & \lambda_2 & & * & & & & \\ & & & & \ddots & & & & & \\ & & & 0 & & \lambda_2 & & & & \\ & & & & & & \ddots & & & \\ & & & & & & & \lambda_m & & * \\ & 0 & & & & & & & \ddots & \\ & & & & & & & 0 & & \lambda_m \end{bmatrix}\end{split}\]

ただし、上記の行列は、対角成分が \(\lambda_i\) の上三角行列

(14)\[\begin{split}\begin{bmatrix} \lambda_i & & * \\ & \ddots & \\ 0 & & \lambda_i \end{bmatrix}\end{split}\]

が対角線上に \(m\) 個並び、それ以外の成分は全て0。

証明の手引:

\(\lambda_i\) に対応する広義固有ベクトルのなす部分空間を \(W_i\) とすると、

(15)\[V= W_1\oplus \dots \oplus W_m\]

だから、各 \(W_i\) の基底 \(w_1^i,\dots, w_{k_i}^i\) を採り、それらを順に繋げると \(V\) の基底を得る。

\(W_i\) の基底 \(w_1^i,\dots, w_{k_i}^i\) に関する \(T|_{W_i}:W_i\rightarrow W_i\) の行列を \(A_i\) とおくと、この基底に関する \(T\) の行列は次のように表される:

(16)\[\begin{split}\begin{bmatrix} A_1 & & & 0 \\ & A_2 & & \\ & & \ddots & \\ 0 & & & A_m \end{bmatrix}\end{split}\]

よって、各 \(i\) に関して、 \(W_i\) の基底 \(w_1^i,\dots, w_{k_i}^i\) を採り直して \(A_i\) を次の形に変形すればよい:

(17)\[\begin{split}\begin{bmatrix} \lambda_i & & * \\ & \ddots & \\ 0 & & \lambda_i \end{bmatrix}\end{split}\]

定義. ジョルダン標準形、ジョルダン細胞

前項の結果は、もう一歩進んでジョルダン標準形という形に改善することができる。そのためには、冪零行列の標準形を改善する。

\(N\)\(n\) 次の冪零行列とする。

0でないベクトル \(v_1\in V\) を採る。 \(N^k v_1=0\) となる自然数 \(k\) のうち最小のものを \(k_1\) とおく。この時、 \(v_1, Tv_1, \dots, N^{k_1-1}v_1\) は線形独立。この \(k_1\) 個のベクトルを逆順に並べたものを \(a_1^1, \dots, a_{k_1}^1\) とおく。

次に、 \(\langle a_1^1,\dots, a_{k_i}^1\rangle\) に含まれないベクトル \(v_2\in V\) を採り、先ほどと同様に線形独立なベクトル \(v_2, Nv_2, \dots, N^{k_2-1}v_2\) を採る。これを逆順に並べたものを \(a_1^2,\dots, a_{k_2}^2\) とおく。

その次は、 \(\langle a_1^1, \dots, a_{k_1}^1,a_1^2,\dots, a_{k_2}^2\rangle\) に含まれないベクトル \(v_3\in V\) を採り、同様の操作をする。

このように次々と延長していくと、 \(V\) の基底を得る。

この基底に関して、 \(N\) が表現する線形写像 \(K^n\rightarrow K^n\) がどのような行列に対応するか確認する。

\(N^{k_i-1}v_i, \dots, N^2v_i, Nv_i, v_i\)\(N\) を作用させると、 \(0, N^{k_i-1}v_i,\dots, N^2v_i, Nv_i\) となる。つまり、1つずつ右にずれて一番左には0が来る。これを行列で表現すると、次のようになる:

(18)\[\begin{split}\begin{bmatrix} 0 & 1 & & 0 \\ & 0 & \ddots & \\ & & \ddots & 1 \\ 0 & & & 0 \end{bmatrix}\end{split}\]

よって、 \(N\) は上記の形の行列を \(i\) 個対角線上に並べた行列で表せる。

前項で \(T\) が次の形の行列を対角線上に並べた行列で表されることをみた:

(19)\[\begin{split}\begin{bmatrix} \lambda & & * \\ & \ddots & \\ 0 & & \lambda \end{bmatrix}\end{split}\]

上記の議論から、この構成要素は次の形に改善できることが解った:

(20)\[\begin{split}\begin{bmatrix} \lambda & 1 & & 0 \\ &\lambda & \ddots & \\ & & \ddots & 1 \\ 0 & & & \lambda \end{bmatrix}\end{split}\]

これを ジョルダン細胞 と呼ぶ。ジョルダン細胞をいくつか対角線上に並べてできる行列を ジョルダン標準形 と呼ぶ。

命題. ジョルダン標準形は互いに相似

\(A\) を正方行列とし、 \(J_1, J_2\)\(A\) のジョルダン標準形とすると、 \(J_1\)\(J_1\) は相似。

対角化可能性

行列 \(A\) が対角行列 \(\text{diag}(c_1,\dots, c_n)\) と相似とする:

(21)\[\begin{split}AP=P\begin{bmatrix} c_1 & & 0 \\ &\ddots & \\ 0 & & c_n \end{bmatrix}\end{split}\]

この式から解るように、 \(A\) が対角行列と相似であるというのは、 \(A\) の固有ベクトルからなる \(\mathbb{C}^n\) の基底が存在するということだ。

本節では、 \(A\) の固有ベクトルからなる正規直交基底が存在することと \(A\) が正規行列であることが同値であることを示す。

命題. 正規写像の広義固有ベクトルは固有ベクトル

\(T\) が正規写像の時、 \(T\) の広義固有ベクトルは \(T\) の固有ベクトル。

証明:

示したいのは、任意の正規写像 \(T\) と複素数 \(\lambda\) と自然数 \(k\) に関して

(22)\[\text{Ker }(T-\lambda I)^k = \text{Ker }(T-\lambda I)\]

が成り立つことだが、 \(T- \lambda I\) も正規写像なので、

(23)\[\text{Ker }T^k = \text{Ker }T\]

を示せばよい。

\(k\) に関する数学的帰納法で証明する。 \(k=1\) の時は自明。 \(k\) に関して当該命題が成立していると仮定すると、

(24)\[T(T^kv)=T^{k+1}v=0\]

より、 \(T^kv\in \text{Ker }T\) 。命題 命題. 正規写像の核と随伴の核 より、 \(T^kv\in \text{Ker }T^\dagger\) だから、

(25)\[T^\dagger (T^k v)=0\]

よって、

(26)\[\begin{split}\begin{align} \langle T^kv, T^kv\rangle &= \langle T^\dagger (T^kv), T^{k-1}v\rangle\\ &= 0 \end{align}\end{split}\]

従って、 \(v\in \text{Ker }T^k\) 。帰納法の仮定により、 \(v\in \text{Ker }T\) 。よって、 \(\text{Ker }T^{k+1}=\text{Ker }T\)

命題. 正規写像の相異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交する

\(T\) を正規写像とし、 \(\lambda_1, \lambda_2\)\(T\) の相異なる固有値とする。 \(v_i\)\(\lambda_i\) の固有ベクトルとすると、 \(v_1\)\(v_2\) は直交する。

証明:

\(v_2\)\(T^\dagger\)\(\overline{\lambda_2}\) に対応する固有ベクトルにもなっている: \((T-\lambda_2I)v_2=0\) だから、命題 命題. 正規写像の核と随伴の核 より、 \((T^\dagger -\overline{\lambda_2}I)v_2 = 0\)

従って、

(27)\[\begin{split}\begin{align} (\lambda_1 - \lambda_2)\langle v_1, v_2\rangle &= \langle \lambda_1v_1, v_2\rangle - \langle v_1, \overline{\lambda_2} v_2\rangle\\ &= \langle Tv_1, v_2\rangle - \langle v_1, T^\dagger v_2\rangle \\ &= \langle Tv_1, v_2\rangle - \langle Tv_1, v_2\rangle \\ &= 0 \end{align}\end{split}\]

よって、 \(\langle v_1, v_2 \rangle = 0\)

命題. スペクトル定理

\(T\) が正規であることと、 \(T\) の固有ベクトルからなる \(V\) の正規直交基底が存在することは同値。

証明の手引:

\(T\) が正規の時、 \(T\) の相異なる固有値を \(\lambda_1, \dots, \lambda_m\) とし、 \(\lambda_i\) に対応する固有ベクトルからなる空間を \(W_i\) とする。各 \(W_i\) の正規直交基底を採り、それらを全て合わせて \(V\) の基底を作れば、これが条件を満たす。

固有ベクトルからなる \(V\) の正規直交基底が存在する時、この基底を \(p_1,\dots, p_n\) とし、 \(p_i\) に対応する固有値を \(\lambda_i\) とすると、この基底によって \(T\) は対角行列 \(\text{diag}(\lambda_1,\dots, \lambda_n)\) で表される。同じ基底に関して、 \(T^\dagger\) も対角行列で表される。対角行列同士が可換であることから、 \(T\)\(T^\dagger\) は可換。

定義. 直交行列

\(V\)\(\mathbb{C}^n\) または \(\mathbb{R}^n\) とする。 \(a_1,\dots, a_n \in V\) とし、 \(a_i\) を第 \(i\) 列とする行列を \(A\) とする。この時、 \(a_1,\dots, a_n\) が正規直交基底であることは、 \(A^TA = I\) と同値。そこで、次のように定義する:

正方行列 \(A\) は、 \(A^T=A^{-1}\) が成り立つ時、 直交行列 という。