実行列について

実スペクトル理論

\(V\)\(\mathbb{R}\) 上の \(n\) 次元線形空間とし、 \(T\in \text{End}(V)\) とする。

定義. 線形空間の複素化

定義. スカラーの拡大 によって、 \(\mathbb{C}\) 線形空間 \(V^\mathbb{C}\) を得る。これを \(V\)複素化 という。

任意のベクトル \(w\in V^\mathbb{C}\) は、あるベクトル \(u, v\in V\) によって \(w=1\otimes u + i\otimes v\) と書ける。これを \(u+iv\) と表記する。

命題. 複素化の基底

\(V\) の基底 \(e_1,\dots, e_n\) に関して、 \(1\otimes e_1,\dots, 1\otimes e_n\)\(V^\mathbb{C}\) の基底。

定義. 作用素の複素化

\(T\in \text{End}(V)\) とする。任意のベクトル \(u+iv\in V^\mathbb{C}\) に関して、

(1)\[T_\mathbb{C}v=Tu + iTv\]

と定義すると、 \(\mathbb{C}\) 線形写像 \(T_\mathbb{C}\in \text{End}(V^\mathbb{C})\) が定まる。これを \(T\)複素化 という。

命題. 作用素を複素化しても表現行列は変わらない

\(V\) の基底 \(e_1,\dots, e_n\) を採ると、 \(T\) は行列で表わされる。また、 \(V^\mathbb{C}\) の基底 \(1\otimes e_1,\dots, 1\otimes e_n\) によって、 \(T_\mathbb{C}\) は行列で表される。

この二つの行列は一致する。

命題. 複素化の固有値

\(T_\mathbb{C}\) の実数の固有値は \(T\) の固有値でもある。また、任意の元 \(k\in \mathbb{N}\)\(\lambda\in \mathbb{C}\)\(u, v\in V\) に関して、次が成り立つ:

(2)\[(T_\mathbb{C}-\lambda I)^k(u+iv)=0 \Leftrightarrow (T_\mathbb{C}-\overline{\lambda}I)^k(u-iv)=0\]

証明の手引:

\(k\) に関する数学的帰納法。

命題. 奇数次元の実線形空間上の線形作用素は実数の固有値を持つ

\(\dim{V}\) が奇数の時、 \(T_\mathbb{C}\) は実数の固有値を持つ。

証明:

命題. 複素化の固有値 より、 \(\lambda\)\(T_\mathbb{C}\) の固有値であれば、 \(\overline{\lambda}\) は同じ重複度の \(T_\mathbb{C}\) の固有値。即ち、 \(\lambda\) の重複度と \(\overline{\lambda}\) の重複度の和は偶数。 \(T_\mathbb{C}\) の固有値の重複度を全て足すと \(n\) に一致するから、 \(n\) が奇数の時は実数の固有値がなければならない。

定義. 実数の場合の特性多項式と最小多項式

\(T\) の特性多項式と最小多項式を、 \(T_\mathbb{C}\) の特性多項式と最小多項式と定義する。これらは、実数係数の多項式だ。

定義. 内積の拡大

\(V\) 上の内積 \(\langle -, -\rangle\) を基に、 \(V^\mathbb{C}\) 上の内積を定義する:

(3)\[\langle u_1+iv_1, u_2+iv_2 \rangle = \langle u_1, u_2\rangle + \langle v_1, v_2\rangle + i\langle v_1, u_2\rangle - i\langle u_1, v_2\rangle\]

命題. 自己随伴作用素の固有値は実数

\(T\) は自己随伴とすると、 \(T\) の固有値 \(\lambda\) は実数。

証明の手引:

(4)\[\lambda\| v\|^2 = \langle \lambda v, v\rangle = \langle Tv, v\rangle = \langle v, Tv\rangle = \langle v, \lambda v\rangle = \overline{\lambda}\| v\|^2\]

命題. 実スペクトル定理

\(T\) が自己随伴であることと、 \(T\) の固有ベクトルからなる \(V\) の正規直交基底が存在することは同値。

証明の手引:

\(T\) が自己随伴である時、 \(T_\mathbb{C}\) も自己随伴。よって、 \(T_\mathbb{C}\) の固有ベクトルからなる \(V^\mathbb{C}\) の基底が存在する。これを

(5)\[u_1+iv_1,\dots, u_n+iv_n\]

とすると、 \(u_1,v_1,\dots, u_n, v_n\)\(V\) を張る。また、 \(T_\mathbb{C}\) は自己随伴なので固有値は全て実数であり、よって、これらは \(T\) の固有ベクトルでもある。故に、 \(V\)\(T\) の固有ベクトルで張られる。

\(V\)\(T\) の各固有値 \(\lambda_i\) に対応する固有ベクトルのなす空間 \(W_i\) の直和だから、各 \(W_i\) の正規直交基底を採り、それらを全て合わせると \(V\) の基底を得る。異なる \(W_i\) に属するベクトルは直交するから、これらは正規直交基底になり、また、 \(T\) の固有ベクトルから成る。

固有ベクトルからなる \(V\) の正規直交基底が存在する時、この基底に関して \(T\) は対角行列で表される。 \(T^\dagger\) も同じ行列で表されるから、 \(T\) は自己随伴。

二次形式の理論

定義. 二次形式

\(\mathbb{R}\) 上の多項式 \(F(x)\) は、全ての項の次数が2の時、 二次形式 という:

(6)\[F(x)=\sum_{i=1}^n a_{ii}x_i^2 + \sum_{i<j}a_{ij}x_ix_j\]

この時、 \(a_{ij}/2\) を改めて \(a_{ij}\) と書き直すと、次のように書ける:

(7)\[F(x)=\sum_{i=1}^n a_{ii}x_i^2 + 2\sum_{i<j}a_{ij}x_ix_j\]

\(i>j\) に関して \(a_{ij}=a_{ji}\) と定義することで、対象行列 \(a\) を使って \(F(x)\) を表すことができる:

(8)\[F(x)=x^T a x\]

この対応によって、 \(n\) 変数の二次形式と \(n\) 次対称行列は完全に対応する。

命題. シルヴェスタの慣性法則

\(A\)\(\mathbb{R}\) 上の \(n\) 次対称行列とする。正則行列 \(P\) が存在して、

(9)\[P^{-1}AP = \text{diag}(1,\dots, 1, -1,\dots, -1, 0, \dots, 0)\]

となる。さらに、ここに含まれる \(1, -1, 0\) それぞれの個数は、 \(P\) の採り方に依らない。

証明:

実スペクトル定理より、ある直交行列 \(Q\) を使って次のように書ける:

(10)\[Q^{-1}AQ = \text{diag}(a_1,\dots, a_p, a_{p+1}, \dots, a_{p+q}, a_{p+q+1}, \dots, a_n)\]

必要ならば列の並べ替えをすることで、 \(a_1,\dots, a_p\) は正、 \(a_{p+1},\dots, a_{p+q}\) は負、 \(a_{p+q+1},\dots, a_n\) は0にできる。この時、

(11)\[P=Q\ \text{diag}\left( \frac{1}{\sqrt{|a_1|}}, \dots, \frac{1}{\sqrt{|a_{p+q}|}}, 1, \dots, 1\right)\]

とおくと、目標の式を彫る。

次に、この種の正則行列 \(P_1,P_2\) に関して、 \(P_1^{-1}AP_1\) の対角成分には \(1\)\(p\) 個と \(-1\)\(q\) 個、 \(P_2^{-1}AP_2\) の対角成分には \(1\)\(s\) 個と \(-1\)\(q\) 個とする。

行列の階数は、ある線形写像の像の次元として座標軸の採り方によらず一定の値を持つから、

(12)\[\text{rank }A = p+q = s+t\]

が成り立つ。

\(x\in \mathbb{R}^n\) に関して

(13)\[F(x)=x^T A x\]

と定義する。次が成り立つ:

(14)\[\begin{split}\begin{align} F(P_1x) &= x_1 + \dots + x_p - x_{p+1}-\dots - x_{p+q}\\ F(P_2x) &= x_1 + \dots + x_s - x_{s+1} - \dots - x_{s+t} \end{align}\end{split}\]

\(f:\mathbb{R}^n\rightarrow \mathbb{R}^n\)\(x\mapsto P_2^{-1}P_1x\) で定義する。また、次のように部分空間を定義する:

  1. \(W_1 = \{x\in \mathbb{R}^n | x_1 = \dots = x_p = 0 \}\)\
  2. \(W_2 = \{x\in \mathbb{R}^n | x_{s+1}=\dots x_{s+t}= 0 \}\)

\(x\in f^{-1}(W_2)\cap W_1\) とする。この時、 \(x=f(y)\) となる \(y\in W_2\) を採ると、 \(P_2x = P_1y\) より、

(15)\[\begin{split}\begin{align} -x_{p+1}^2-\dots - x_{p+q}^2 &= F(P_2x)\\ &= F(P_1y)\\ &= y_1^2 + \dots + y_s^2 \end{align}\end{split}\]

よって、 \(x=0\)。即ち、 \(f^{-1}(W_2)\cap W_1 = \{0\}\) 。故に、

(16)\[\begin{split}\begin{align} \dim{(f^{-1}(W_2) + W_1)} &= \dim{W_2} + \dim{W_1}\\ &= s + (n-p)\\ &\leq \dim{\mathbb{R}^n}=n \end{align}\end{split}\]

従って、 \(s\leq q\)

同様に \(q\leq s\) も示せるから、 \(p=s\) 。また、 \(p+q=s+t\) より、 \(q=t\)