テンソルについて

線形空間の直和は \(m\) 次元線形空間と \(n\) 次元線形空間から \((m+n)\) 次元線形空間を作る構成法だが、 \(mn\) 次元線形空間を作る方法もある。それがテンソル積だ。

テンソル積の応用には次の例がある:

  1. 積分論の"体積要素"
  2. 連続体力学の"応力テンソル"や"歪テンソル"
  3. 一般相対性理論はテンソルを使って記述される
  4. スカラーの拡大。例えば、実ベクトル空間を複素ベクトル空間に拡大する

\(K\) は体とする。

テンソル積の構成

定義. 集合族

\(I\) を集合とする。任意の元 \(i\in I\) に対して集合 \(S_i\) を対応させる写像を、 \(I\) を添字集合とする集合族 と呼び、 \(\{S_i\}_{i\in I}\) と書く。

定義. 集合の直積

有限個の集合 \(S_1,\dots, S_n\) に関して直積 \(S_1\times \dots \times S_n\) を定義したが、これを無限個の場合に一般化する。

集合族 \(\{S_i\}_{i\in I}\) に関して、 \(S=\cup_{i\in I}S_i\) とおく。次の集合を \(\{S_i\}_{i\in I}\)直積 という:

(1)\[\prod_{i\in I}S_i=\{f:I\rightarrow S| \forall i\in I. f(i)\in S_i\}\]

添字 \(i\in I\)\(s_i\) を対応させる \(\prod_{i\in I} S_i\) の元を \((s_i)_{i\in I}\) と書く。

定義. 線形空間の直積

\(K\) 上の線形空間からなる直積 \(\prod_{i\in I} V_i\) は、次の定義で \(K\) 上の線形空間となる:

  1. 任意の元 \((s_i)_{i\in I}, (t_i)_{i\in I}\in \prod_{i\in I} V_i\) に関して、 \((s_i)_{i\in I}+(t_i)_{i\in I}=(s_i+t_i)_{i\in I}\)
  2. 任意の元 \(c\in K, (s_i)_{i\in I}\) に関して、 \(c(s_i)_{i\in I}=(cs_i)_{i\in I}\)

定義. 一般の直和

有限個の線形空間 \(V_1,\dots, V_n\) に関して、直和 \(V_1\oplus \dots \oplus V_n\) を定義したが、これを無限個の場合に一般化する。

線形空間の直積 \(\prod_{i\in I} V_i\) の元 \((v_i)_{i\in I}\) で有限個の \(i\) を除いて \(v_i=0\) となるもの全体からなる集合を \(\bigoplus_{i\in I} V_i\) と書き、 \(\{V_i\}_{i\in I}\)直和 と呼ぶ。

定義. 自由線形空間

集合 \(S\) に関して、 \(\bigoplus_{s\in S}K\)\(S\) 上の 自由 \(K\) 線形空間 といい、 \(F(S)\) と書く。

\((k_s)_{s\in S}\in F(S)\) は、0でない \(s\)\(s_1,\dots, s_n\) とすると、次のように書ける:

(2)\[k_{s_1}s_1+k_{s_2}s_2+\dots + k_{s_n}s_n\]

つまり、 \(F(S)\) とは、 \(S\) の元から作られる \(K\) 係数の形式的な有限和全体のなす線形空間だ。

定義. テンソル積

\(K\) 上の線形空間 \(V, W\) に関して、その テンソル積 \(V\otimes W\) を次のように定義する:

初めに、 自由線形空間 \(F(V\times W)\) の次の部分集合を考える:

(3)\[\begin{split}\begin{align} S_1 &= \{(v_1, w)+(v_2, w)-(v_1+v_2, w) | v_1, v_2\in V, w\in W \}\\ S_2 &= \{ (v, w_1)+(v, w_2)-(v, w_1+w_2) | v\in V, w_1, w_2, \in W \}\\ S_3 &= \{ c(v, w) - (cv, w) | c\in K, v\in V, w\in W \}\\ S_4 &= \{ c(v, w) - (v, cw) | c\in K, v\in V, w\in W \}\\ S &= S_1\cup S_2 \cup S_3 \cup S_4 \end{align}\end{split}\]

この \(S\) に関して、商空間 \(F(V\times W)/\langle S \rangle\)\(V\otimes W\) と定義する。

\((v, w)\in F(V\times W)\)\(F(V\times W)/\langle S \rangle\) における同値類を \(v\otimes w\) と書く。 \(V\otimes W\) の元は、 \(v\otimes w\) の形の元の線形結合だ。

テンソル積の基本性質

演算に関する基本性質

\(V\otimes W\) に関して、次が成り立つ:

  1. 任意の元 \(v_1, v_2\in V, w\in W\) に関して、 \((v_1+v_2)\otimes w = v_1\otimes w + v_2\otimes w\)
  2. 任意の元 \(v\in V, w_1, w_2\in W\) に関して、 \(v\otimes (w_1+w_2)=v\otimes w_1 + v\otimes w_2\)
  3. 任意の元 \(v\in V, w\in W, c\in K\) に関して、 \(c(v\otimes w) = (cv)\otimes w = v\otimes (cw)\)

これが成り立つように \(S\) を定義したのだ。

テンソル積の普遍性

テンソル積の性質のほとんどは、ここで説明する普遍性から導出される。

\(V, W\)\(K\) 上の線形空間とする。 \(K\) 上の線形空間 \(X\) に関して、写像 \(\phi:V\times W\rightarrow X\) は、次の条件を満たす時、 双線形 という:

  1. 任意の元 \(v\in V\) に関して、 \(\phi(v, -):w\mapsto \phi(v, w)\)\(W\) から \(X\) への \(K\) 線形写像
  2. 任意の元 \(w\in W\) に関して、 \(\phi(-, w):v\mapsto \phi(v, w)\)\(V\) から \(X\) への \(K\) 線形写像

\((v, w)\mapsto v\otimes w\) によって定まる写像 \(\varphi:V\times W\rightarrow V\otimes W\) は双線形写像で、次が成り立つ:

  1. \(K\) 上の任意の線形空間 \(X\) と任意の双線形写像 \(f:V\times W\rightarrow X\) に関して、 \(K\) 線形写像 \(\tilde{f}:V\otimes W\rightarrow X\)\(f=\tilde{f}\circ\varphi\) を満たすものがただ一つ存在する。

これをテンソル積の 普遍性 と呼ぶ。

上記の命題を \(P(\varphi)\) と書くと、線形空間 \(A\) と双線形写像 \(\varphi_A:V\times W\rightarrow A\)\(P(\varphi_A)\) を満たすならば、 \(A\simeq V\otimes W\) となる。

証明の手引:

\((v, w)\mapsto 1\cdot(v, w)\) によって写像

(4)\[i:V\times W\rightarrow F(V\times W)\]

が定まる。双線形写像 \(f:V\times W\rightarrow X\) に関して、 \(K\) 線形写像

(5)\[g:F(V\times W)\rightarrow X\]

\(f=g\circ i\) を満たすものが自然に構成できる。この \(g\) は、 定義. テンソル積 で定義した部分空間 \(\langle S \rangle \subseteq F(V\times W)\) に関して \(g(\langle S \rangle) =0\) を満たすことが確かめられる。故に、 \(g\) によって商空間からの写像

(6)\[\tilde{f}:F(V\times W)/\langle S \rangle \rightarrow X\]

が自然に定義される。これは \(f=\tilde{f}\circ \varphi\) を満たす。

次に、後半部分の証明をする。

双線形写像 \(\varphi_A:V\times W\rightarrow A\) に関して命題 \(P(\varphi_A)\) が成り立つとする。この時、命題 \(P(\varphi)\) によって、 \(K\) 線形写像

(7)\[\tilde{\varphi_A}:V\otimes W\rightarrow A\]

が存在して \(\varphi_A=\tilde{\varphi_A}\circ \varphi\) が成り立つ。また、命題 \(P(\varphi_A)\) によって、 \(K\) 線形写像

(8)\[\tilde{\varphi}:A\rightarrow V\otimes W\]

が存在して \(\varphi=\tilde{\varphi}\circ \varphi_A\) が成り立つ。この時、合成写像

(9)\[\tilde{\varphi}\circ \tilde{\varphi_A}: V\otimes W\rightarrow V\otimes W\]

\(\varphi=(\tilde{\varphi}\circ \tilde{\varphi_A})\circ \varphi\) を満たす。

恒等写像

(10)\[\text{id}_{V\otimes W}:V\otimes W\rightarrow V\otimes W\]

\(\varphi=\text{id}_{V\otimes W}\circ \varphi\) を満たすから、唯一性により \(\tilde{\varphi}\circ \tilde{\varphi_A} = \text{id}_{V\otimes W}\) でなければならない。従って、 \(\tilde{\varphi}\) は同型。

普遍性によるテンソル積の同型

前掲の命題によって、 \(V\otimes W \simeq W\otimes V\)\((V_1\otimes V_2)\otimes V_3\simeq V_1\otimes (V_2\otimes V_3)\) 等が示せる。

定義. 三つ以上のテンソル積

2つの \(K\) 線形空間 \(V, W\) に関してテンソル積 \(V\otimes W\) を定義したが、 \(n\) 個の \(K\) 線形空間 \(V_1, \dots, V_n\) に関しても、同様にしてテンソル積 \(V_1\otimes \dots \otimes V_n\) を定義する。

命題. テンソル積の基底

\(V, W\) は有現次元 \(K\) 線形空間とする。 \(e_1^V, \dots, e_m^V\)\(V\) の基底、 \(e_1^W,\dots, e_n^W\)\(W\) の基底とする。この時、 \(\{e_i^V\otimes e_j^W\}\)\(V\otimes W\) の基底。

系として、次を得る:

(11)\[\dim{(V\otimes W)}=\dim{V}\dim{W}\]

証明:

\(V\otimes W\)\(\{e_i^V\otimes e_j^W\}\) で生成されることは明らか。

(12)\[\sum a_{ij}e_i^V\otimes e_j^W = 0\]

として \(a_{ij}=0\) を示す。双対基底 \(e_i^V, e_j^W\) を使って写像

(13)\[f_{ij}:V\times W\rightarrow K\]

\((v, w)\mapsto (e_i^V)^*(v) \cdot (e_j^W)^*(w)\) で定義する。これは双線形だから、ある写像

(14)\[\tilde{f_{ij}}:V\otimes W\rightarrow K\]

が存在して、自然な写像 \(\varphi:V\times W\rightarrow V\otimes W\) に関して \(f_{ij} = \varphi\) が成り立つ。

(15)\[\tilde{f_{ij}}(\sum a_{ij}e_i^V\otimes e_j^W) = a_{ij}\]

より、 \(a_{ij}=0\) を得る。

様々な話題

定義. スカラーの拡大

\(V\)\(\mathbb{R}\) 線形空間とする。 \(\mathbb{C}\)\(\mathbb{R}\) 線形空間とみなせるから、 \(V\)\(\mathbb{C}\) のテンソル積を作ることができる:

(16)\[V^\mathbb{C} = \mathbb{C}\otimes V\]

これは \(\mathbb{R}\) 線形空間だが、次のように \(\mathbb{C}\) 線形空間になる:

  1. 任意の元 \(c\in \mathbb{C}\) と任意のベクトル \(z\otimes v\in V^\mathbb{C}\) に関して、 \(c(z\otimes v) = (cz)\otimes v\) と定義する。

命題. テンソル積とHom空間との同型

\(V, W\) は有現次元 \(K\) 線形空間とする。

次が成り立つ:

(17)\[V^*\otimes W\simeq \text{Hom}(V, W)\]

証明:

写像

(18)\[f:V^*\times W\rightarrow \text{Hom}(V, W)\]

\((\phi, w)\mapsto (v\mapsto \phi(v)w)\) で定義する。これに関して、写像

(19)\[\tilde{f}:V^*\otimes W\rightarrow \text{Hom}(V, W)\]

が自然に定まる。

\(e_1^V, \dots, e_m^V\)\(V\) の基底、 \(e_1^W, \dots, e_n^W\)\(W\) の基底とする。基底を採ったことで、同型

(20)\[M^-:\text{Hom}(V, W)\rightarrow \text{Mat}(n, m;K)\]

が定まる(参考: 線形写像の表示としての行列 )。合成写像

(21)\[M^-\circ\tilde{f}:V\otimes W\rightarrow \text{Mat}(n, m;K)\]

は、 \((e_i^V)^*\otimes e_j^W\) を第 \((j, i)\) 成分が1でそれ以外の成分が0の行列 \(E_{ji}\in \text{Mat}(n, m;K)\) に対応させる。 \(\{E_{ji}\}\)\(\text{Mat}(n, m;K)\) の基底だから、 \(M^-\circ\tilde{f}\) は同型。従って、 \(\tilde{f}\) は同型。

定義. 多重線形写像

\(V_1, \dots, V_n\)\(K\) 上の線形空間とする。写像

(22)\[T:V_1\times \dots \times V_n \rightarrow K\]

は、次の条件を満たす時、 \(V_1\times\dots\times V_n\) 上の 多重線形写像 という:任意の \(i\) に関して、

  1. \(T(v_1, \dots, v_i+v_i', \dots, v_k) = T(v_1,\dots, v_i,\dots, v_k)+T(v_1,\dots, v_i', \dots, v_k)\)
  2. \(T(v_1,\dots, cv_i, \dots, v_k)=cT(v_1, \dots, v_i, \dots, v_k)\)

\(V_1\times\dots\times V_n\) 上の多重線形写像全体の集合を \(L(V_1,\dots, V_n;K)\) と書く。

命題. テンソル積と多重線形写像

\(V_1, \dots, V_n\)\(K\) 上の有現次元線形空間とする。次が成り立つ:

(23)\[V_1^*\otimes \dots \otimes V_n^* \simeq L(V_1, \dots, V_n;K)\]

これにより、 \(L(V_1, \dots, V_n;K)\) をテンソルと呼ぶこともある。

証明:

\(\phi_1\in V_1^*,\dots, \phi_n\in V_n^*\) に関して、

(24)\[f(\phi_1,\dots, \phi_n)\in L(V_1,\dots, V_n;K)\]

\(f(\phi_1,\dots, \phi_n)(v_1,\dots, v_n) = \phi_1(v_1)\cdot\dots\cdot\phi_n(v_n)\) で定義する。

\(\phi_1,\dots, \phi_n\mapsto f(\phi_1,\dots, \phi_n)\) は多重線形写像

(25)\[F:V_1^*\times \dots \times V_n^*\rightarrow L(V_1, \dots, V_n;K)\]

を定める。これによって、 \(K\) 準同型

(26)\[\tilde{F}:V_1^*\otimes \dots\otimes V_n^* \rightarrow L(V_1,\dots, V_n;K)\]

が定まる。

\(e_1^i,\dots,e_{d_i}^i\)\(V_i\) の基底とし、 \((e_1^i)^*,\dots, (e_{d_i}^i)^*\) をその双対基底とする。

\(v_1\in V_1, \dots v_n\in V_n\) とし、 \(v_i=\sum_{j=1}^{d_i}a_{ij}e_j^i\) とする。

(27)\[\tilde{F}((e_{i_1}^1)^*\otimes \dots \otimes (e_{i_n}^n)^*(e_{j_1}^1,\dots, e_{j_n}^n) = \delta_{i_1j_1}\cdot \dots \cdot \delta_{i_nj_n}\]

が成り立つ。ここで、 \(\delta_{ij}\)定義. クロネッカーのデルタ 。よって、任意の \(T\in L(V_1,\dots, V_n;K)\) に関して、次の式変形ができる:

(28)\[\begin{split}\begin{align} T(v_1,\dots, v_n) &= \sum_{i_1=1}^{d_1}\dots\sum_{i_n=1}^{d_n}a_{1i_1}\cdot \dots \cdot a_{ni_n}T(e_{i_1}^1,\dots,e_{i_n}^n)\\ &= \sum_{i_1=1}^{d_1}\dots\sum_{i_n=1}^{d_n} T(e_{i_1}^1,\dots, e_{i_n}^n) \tilde{F}\left( (e_{i_1}^1)^*\otimes\dots\otimes (e_{i_n}^n)^*\right) (v_1,\dots, v_n) \end{align}\end{split}\]

つまり、

(29)\[T=\sum_{i_1=1}^{d_1}\dots\sum_{i_n=1}^{d_n} T(e_{i_1}^1,\dots, e_{i_n}^n) \tilde{F}\left( (e_{i_1}^1)^*\otimes\dots\otimes (e_{i_n}^n)^*\right)\]

従って、 \((e_{i_1}^1)^*\otimes\dots\otimes (e_{i_n}^n)^*\)\(\tilde{F}\) による像は \(L(V_1,\dots, V_n;K)\) を張り、また、線形独立であることが次のようにしてわかる:

(30)\[\sum_{i_1,\dots, i_n} a_{i_1\dots i_n}\cdot \tilde{F}\left( (e_{i_1}^1)^*\otimes \dots \otimes (e_{i_n}^n)^* \right) = 0\]

とすると、 \((e_{j_1}^n,\dots, e_{j_n}^n)\) にこの写像を使えば、 \(a_{j_1\dots j_n}=0\) を得る。

従って、 \(\tilde{F}\) は同型。